SPIDER

メッセージ
「全録ブーム」からの離脱宣言

(この記事は 2011/12/28 に公開したものです)


 地デジ版SPIDER PROの発表を行った際に一般家庭用SPIDERの発売について2011年末の予定と申し上げました。それ以来、非常にたくさんの方々がSPIDERに関心を持っていただき、多くのメディアで取り上げていただきました。われわれが驚いたのは、単に製品に興味があるだけでなく、SPIDERの製品開発の考え方やテレビへの想いに賛同いただいている方々が多いということでした。この事実に、われわれは喜ぶとともに、その期待に応える責任があると強く感じています。なぜなら、皆さんに共感いただいた想いというのは、単に便利な製品を作るということではないからです。


 某著名誌から、2012年は『全録ブーム』が到来するので、SPIDERの取材をしたいということで電話をいただいた時、『全録ブーム』、『来年のヒット商品』といった言葉に驚きを覚えました。われわれにはプロユースとして5年の実績があり、最近では引き合いもたくさんいただくようになりましたが、なぜ急に「全録ブーム」なのか理解できませんでした。話を伺うと、大手家電メーカーの東芝や他の会社からも全録型レコーダーが発売になるということでした。1999年より夢見てきた全録がコモディティになる世界がようやく訪れるという興奮と同時にそれが一過性に終わらないかという不安がよぎりました。このような環境下で製品を出していくことについて2011年末までの間、検討を重ねました。

テレビの楽しさに、もっと出会える

 12月上旬発売の「日経トレンディ2012年1月号」でSPIDER は、東芝やその他製品と完全テストをした結果、Aランクで『圧倒的』という最高評価をいただきました。客観的で徹底的な比較評価をするという定評の日経トレンディ誌で最高評価をいただいたことは本当にありがたく思います。普通のメーカーであれば、せっかく高い評価をいただいた製品なので、これを世に出すことに普通なら何の躊躇もないでしょう。


 しかし、われわれの頭の中は、実は右の図のようになっています。


 つまり、「全録」だけではテレビは私たちの考える「新しいテレビ」を実現するにはほど遠いと思っています。「全録」だけでは毎日テレビを見るのが楽しくならないのです。なぜなら、新しい出会いや発見がないからです。弊社が2年間に渡って一般家庭モニターで実験をしたところ、次のことがわかりました。「全録」だけのシンプルな機能を用意し、番組表だけから再生ができるようにした場合、結局、視聴者は知っている番組しか見ることはありませんでした。これでは、縮小均衡なのです。つまりは、知っているものしか見ない「予約録画」とあまり変わらないのです。もちろん、最近はtwitterなどのソーシャルメディアで番組を後から知って見ることができるので、ある程度は補完できます。しかし、皆さんのタイムラインは、毎日テレビのことばかりで一杯ではないはずです。


 そこで、SPIDERには、検索とソーシャルのサービスが搭載されます。どういう違いが出るかは実際のデータを見ていただきましょう。たとえば、「芦田愛菜」で検索した場合、普通のテレビやレコーダーでは、直近1週間で9件がヒットします。これは番組表にもとづく検索で、どのテレビやレコーダーでもこの数は同じです。ところが、SPIDERで「芦田愛菜」で検索すると、9件の出演番組に加えて、25種類のCM、および56箇所の番組中のコーナーがヒットします。また、最近では話題も下火になった「オリンパス」で検索した場合、市販のテレビやレコーダーでは2番組しかヒットしませんが、SPIDERでは、まだ103件がヒットし、オリンパスのニュースを頭出しして再生ができるわけです。このように普通のテレビやレコーダーとSPIDERとでは、探しているものに出会うチャンスが数十倍違ってくるのです。さらに、検索途中で偶然出くわしたコンテンツに見入ってしまうという経験はネット上では日常茶飯事ですが、SPIDERを使うことでテレビでもそれが起こるようになるのです。

家庭用SPIDERへ向けて

 このような圧倒的な検索サービスにより、新しいものを発見することができるのがSPIDERの本質であり、強みです。現在の検索サービスは、プロ用として突き詰めて考えられ、その後、何度もお客様のフィードバックをいただき、改善してきました。どんな小さな露出でも逃さないのがプロ用途ですが、一般家庭での検索に対するニーズは異なります。様々なアイデアや斬新なサービスを検討中ですが、まだ皆さんにお試しいただいてから磨き上げていく必要があります。加えて一般家庭用SPIDERは全国でのサービス展開を目指していますので、検索サービスも全国どこでも同じものが受けられるようにするためにもう少し時間がかかります。また、SPIDERのソーシャルサービスについては、アナログ版のSPIDERのときから実験を繰り返してきましたが、直近のfacebook, twitterなどの動向も考慮に入れてさらにパワーアップを検討中です。


 プロ用のSPIDERでは、ユーザーが日々使用する上で出てくる意見に耳を傾け、インターフェースや機能開発はもちろん、検索などのサービスに反映させてきたことで圧倒的に使いやすいという信頼をいただいてきました。しかし、一般家庭用については、われわれはサービスの経験がほとんどありません。2008年にSPIDER zeroという限定販売商品を発売しましたが、アナログ版の旧製品でサービスも限定的でした。今夏の地デジ化以降、新しくなって圧倒的なパフォーマンスを備えたSPIDERを一般家庭で使っていただくためにどのようなサービスをすべきか、家庭用についてもっと経験を積んでいかなければいけません。どのように検索結果を提示すれば子供でも使えるのか、おじいちゃんの毎日の視聴が楽しくなるソーシャル・サービスのインターフェースとは?こういうことを日々、実験、分析、修正していくために2012年春より先行モニターの募集を開始します。

ハード主体の「全録ブーム」からは卒業

 SPIDERは、全録する信頼性の高いハードウェア、圧倒的に使いやすいユーザー・インターフェース、そしてユーザーとコンテンツをマッチさせる楽しいサービスが組み合わさった「新しいテレビ」です。このマッチングの仕組みがなく、「全録」するだけでは単なるハードウェアのスペックアップであり、従来のスペック競争と何ら変わりありません。機能・スペック至上主義は、毎年次々と“おいしい”バズワードへ移行して行きます。そこに消費者の利益はないばかりか、消費者の本質的な便益は難解な技術用語によって覆い隠されてしまいます。


 しかし、全録に検索とソーシャルのサービスを加えたときにもたらされるベネフィットは、明らかで放送局・制作者、広告主、消費者それぞれに大きいのでパラダイムを変えるほどのものになり得ます。つまり、テレビがデジタルやネットの時代に合うものに進化するツールとなるのです。1972年にソニーがビデオを発明し、世界を変えて以来、40年ぶりのイノベーションを実現するため、われわれはハード主体の「全録ブーム」からは卒業し、スペック主義に決別をして、新しいテレビの幕開けのために、全録を前提とした家庭用の検索およびソーシャルサービスにこだわっていきます。そのサービス開発の最終段階として皆さんの力をお借りして磨き上げていくステージに間もなく入ります。


 今後、一般家庭用SPIDERの発売へ向けてみなさんにわれわれの考えていることを定期的にお知らせして皆さんからのご意見も伺っていきたいと思います。引き続きSPIDERにご注目いただけると幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。



株式会社PTP 代表取締役社長 有吉昌康