SPIDERを構想するきっかけになったのは、世界初のHDDレコーダー、TiVoとの出会いでした。HDDに録画をする時代になると、その容量の拡大はとどまることがなく、長期的にはストレージ(記憶媒体)のコストは、0円になるだろうと考えました。そうなった時、各家庭に大容量のストレージがあるのは当たり前で、その中に映像や写真から音楽まであらゆるものが記録されて、いつでも取り出せる時代が来ると思いました。つまり、大容量の記録媒体自体は当たり前で、そこにあまり価値はありません。誰でも利用できるインフラのようなものになるのです。
その時、思い浮かんだのは、インフラとしての高速道路です。高速道路は全国津々浦々までつながり、観光地へのアクセスが便利になります。同じように大容量のストレージに膨大なコンテンツを蓄積することによって、あらゆるコンテンツへ瞬時にアクセスすることが可能になります。しかし、本当にそうでしょうか。私たちが高速道路を使って観光地へ足を運ぶのは、どこにどんな名所がある、そこに行くとこんなに素晴らしい体験ができる、という『情報』のおかげです。これは大容量のストレージでも同じことです。どんなコンテンツが面白いか、あるいは今、あなたの役に立つかを教えてくれる『情報』なしには、いくらコンテンツを蓄積しても宝の持ち腐れです。
テレビは、情報の宝庫です。しかし、テレビで放送される情報はデータベースとして整備されていないため、情報のシェアや検索などの効率的な活用ができません。あらゆるものが効率的に利用できるインターネット、そしてデジタルの時代に情報の整理ができないコンテンツは、新しい時代の中で価値を高めることができず、廃れていくと考えました。そこで、私たちは、テレビが大容量ストレージ時代に向かう中で、コンテンツの情報整理こそが、テレビの価値を高めることにつながると信じ、情報整備とデータベース化を行ってきました。
テレビの新しい価値とは、
1)番組やCMと視聴者のマッチ、2)ネット上に溢れる無数のコンテンツとテレビ情報のつながり、そして、3)視聴者への広告効果を精緻に測定できることです。そして、これらを行うには全てのコンテンツにIDを備え、同じものは同じとして数をカウントし、似たものを構造化して分類する仕組み=データベースが必要でした。
このように私たちが未来だと考えたHDDレコーディングは、データベースとセットになって新しい価値を生み出します。そして、この新しい価値なくしては、単なる「破壊者」になってしまう危険性があります。単なる「全録」では、今までのビジネスモデルであるCMに対して、視聴者に「スキップ」という選択肢しか与えないからです。しかし、データベースによって新しい価値を生み出すことができれば、ビジネスモデルの提案者となることができます。
足掛け6年もかかりましたが、日本初の全国のCMのデータベース "Madison" が完成しました。これによって、SPIDERの体験を北海道の人でも沖縄の人でも同じ様にできるようになります。テレビの強みは、日本全国へのリーチです。そのリーチをデータベースとして整理して説明ができるようにします。これによってテレビの価値が高められるようなビジネスモデルとしてこれから提案させていただきます。ご期待ください。
株式会社PTP 代表取締役社長 有吉昌康